2015.07.21
その他

設立20周年のごあいさつ

cfm20th

 
 
本日2015年7月21日でクリプトン・フューチャー・メディア株式会社は、設立20年を迎えました!この20年間、数えきれないほどの方々に支えられてきました。弊社製品・サービスのユーザー様、お仕事ご一緒させていただいている企業やフリーランスの皆さま、毎朝会うスタッフとそのご家族、そのほか本当に本当に沢山の方々です。中にはもうお逢いできない方もいらっしゃいます。つきなみですが、20周年の節目の今日、皆さまに想いを馳せつつ感謝を伝えたいです。「本当にありがとうございます!」

 
 

元々音楽好きの僕の趣味から起業しましたので、苦労話しみたいなものは本当に思い浮かばなくって。ただ20年って「案外早いんだなあ……」というのが実感です。思い返すと、その僕の趣味がスタートした1980年代後半というのは、楽器機材がデジタル化し始めた頃で、デジタルで高性能&安価になったため個人でも音楽制作の環境を整えられるようになった最初の時代です。その頃社会人となった僕は、気が付くと機材だらけのアパートの一室で生活してました(笑)。特にサンプラーにハマっていて、いろんな音をサンプリングしては新しい音色を作っていました。同じ頃、苦手な英語を克服するためにはじめた勉強の成果を試したくって「KEYBOARD」というデジタル機材も扱う米国雑誌を購読してましたが、大抵の米国雑誌にある個人広告スペース(Classifies Ad)の存在に気付くのにそう時間はかかりませんでした。まもなく自作のサンプリング音色を個人販売する広告を載せ、それがきっかけで世界中のサンプリングCDメーカーと接点ができました。

 

Macとの出逢いもこの頃です。当時音楽制作用にSE/30というMacを使ってました。音楽をやるために買ったMacですが、当時出始めのPhoto Shop 1.0が余りにも楽しそうで、音楽そっちのけでデザインにのめり込みます。その甲斐あって、カタログの類は全て自分でデザインしTooで出力したフィルムを印刷工場に持ち込んで印刷物にしてもらいました。1990年代前半の当時、個人が自力でアイディアを形にする手段はMacしか無かったのです。

 

それからラッキーだったのは、当時大学職員だったため、かなり早い時期からインターネット(以降、ネット)の存在に気付いていたことです。デジタルがヒトの創造力を拡張することはAlan KayやAlvin Tofflerはじめ先人の言葉で知ってました。しかし実際に海外のサーバーにアクセスして情報を瞬時に取得したり送ったりできるネットの仕組みは衝撃でした。と言うのも、以前スイスのアーティストとフロッピーディスクを郵送しあって1曲作る試みをしたことがあって次のフロッピーが届く頃にはすっかり曲想を忘れてしまってました。だから瞬時に情報が行き来できるのはスゴイ!と思いました。あと当時よく読んでたMac系雑誌やStudio Voiceにデジタルやネットの可能性が毎号のように載ってましたから、僕としては「あんなこともできるの?」「こんなこともできる!」という妄想がどんどん膨らんでいてもたってもいられない気分でした。

 
 

一方で葛藤もありました。弊社を設立した1995年は、1月に阪神淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件があり、バブルの高揚感からもとうに冷めていた頃で、社会全体に不安感が漂っていたと思います。当時公務員という固い仕事に就いていた自分との葛藤もあったと思います。けれど、僕はどうしてもデジタルのその先を自分自身で探求したかった。

 

こうして20年前の今日、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社は北海道札幌市で誕生しました。「顧客は首都圏に多いのになぜ札幌で設立したのか?」と良く聞かれます。これからネットがインフラとなって世界を瞬時に結ぶようになるだろうから、僕は札幌でできないことは無いと考えました。むしろ、その方が会社をネットに特化でき、ノウハウも溜まります。

 

当時の主力製品は、「サンプリングCD」という音楽制作の音素材がぎっしり詰まったCDでした。当時から付き合いのあったZERO-G社(英国)、BEST SERVICE社(ドイツ)などのメーカー製品を取り扱う日本の代理店です。音楽制作をしているクリエイター向けのニッチな分野なので売れる数にも限界があります。しかし、1枚のサンプリングCDには何百種類ものサウンドが収録されていて、僕はそれが音楽制作のインスピレーション源としてスゴく便利なことを広めたかった。そのため世界中からクオリティの高いサンプリングCDを見つけては弊社サイトで紹介しネット販売する、ということを繰り返しました。

 

膨大な量のサウンドを扱うようになり、新たなビジネスとしてケータイ着信音の配信サイトをはじめます。当時のJ-PHONEと協力して北海道のクリエイターが手がけるクラブ系着メロ「North Sound」や、ハリウッド映画でも使われる効果音をふんだんに使った「ポケット効果音」など幾つかの配信サイトを社内で開発し運営しました。サイト開発に先立って当時Unix教育の先端を行く稚内北星大学のサマースクールに社員とともに合宿したのは良い想い出です。また弊社は元々音の会社なので、着メロであっても音源チップの性能を最大限に引き出してこだわって制作しました。それが音源チップメーカーであるヤマハの半導体事業部の目に止まり、音源チップのデモ曲制作も依頼されるようになりました。そこから当時ヤマハ社内の研究室で歌声合成技術を開発していた剣持秀紀さんをご紹介いただくことになります。

 

「MEIKO」「KAITO」のリリースを経て、2007年8月に「VOCALOID2 初音ミク」をリリースします。そして「初音ミク」により多くのことが動きはじめたことは皆さまがご存知の通りです。このことは弊社にとっても非常に多くの気付きと学びの機会を与えてくれました。なにせ、「初音ミク」に関する質問・苦情・相談・意見の一切は弊社に届き、我々はそれらに静かに応えていかねばならないからです。

 
 

20年が経ち主力だったサンプリングCDの新規リリース数は数えるほどしかなくなりました。パッケージでのリリースに代わって、いまではダウンロード配信の「サンプルパック」によるリリースが主流になりました。弊社の配信サイト「SONICWIRE(ソニックワイヤ)」は、8,000タイトルを超えるサンプルパック、効果音パック、ソフト音源、VOCALOIDライブラリー等を取り扱い、サウンドの分野では世界でも最大規模です。これが実現できたのも、企画からデザイン、開発まで社内で完結できる体制を初期の頃から手がけてノウハウ化していたからにほかなりません。弊社ではほかにも音楽クリエイターが音楽を自力で世界で売るサービスの「ROUTER.FM(ルーター・エフエム)」やコンテンツ投稿サイト「piapro(ピアプロ)」をはじめクリエイター向けの幾つものサイトを自分たちで発想して開発し運営しています。また新たに取り組んでいる以下のプロジェクトもございます。

 

■「SONOCA(ソノカ)」
音楽を聴く手段の中心がスマートフォン(以降、スマホ)になりつつありますが、お店で売ってる音楽(=CD)は、その場ですぐにスマホで聴けないです。自宅に戻ってパソコンでリッピングする必要があります。でもCDドライブが付いていないパソコンやタブレットだとそもそもリッピングできませんし、最近ではCDプレイヤーを持っていない層も増えてます。一方、その場ですぐにスマホで聴ける音楽(=配信)は、お店で売ってないです。クレジットカードを持たない未成年にとっては、お店でプリペイドカードを購入するより音楽購入の敷居が高いです。現状のこれら課題を解決し「お店で販売できて、その場ですぐにスマホで聴ける」よう開発したのが「SONOCA」で、スマホ(iOS/Android両対応)用のダウンロードカードとなります。
http://sonoca.net

 

■「MIRAI.ST cafe(ミライスト・カフェ)」
クリエイティブ活動を発信し、デザイン・食・音楽・ITなど「つくる人」たちが交差する場づくりを目指して、弊社が札幌市内にオープンしたカフェ&ショップ。カフェでは北海道産食材を使ったメニューが充実。ショップでは、クリエイターの作ったオリジナルグッズを中心に展開。最大30名程度着席できるフリースペースでは、勉強会やワークショップ、DJイベントなど様々な用途に用いられてます。
http://mirai.st

 

■その他にも……
冨田勲先生の「イーハトーブ交響曲」に初音ミクを登場させるために開発した「R3(アールスリー)」も、次の公演に向けてシステムのブラッシュアップを続けています。また、音声に関して取り組んできた画期的な研究もそろそろ成果が出せそうです。

 
 

弊社の顧客はクリエイター(音楽、ゲームサウンド、映像、イラスト、3DCGなどなど)です。また、弊社自身も新しいモノ・コト作りに取り組んでいるクリエイターと自負しています。「クリエイターのためのクリエイター」=「メタクリエイター」として、これからもクリエイター心を忘れずに、また弊社と志のあう個人や企業ともどんどん繋がって行きながら、しっかりと取り組んで参ります!

 

長文にお付き合いいただき感謝いたします。次の20年も何卒宜しくお願いいたします。

 

 

 

2015年7月21日
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 代表取締役 伊藤博之